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「稲作を応援したい」同じ思いを共有する、過疎のまちの製麺所とともに

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今年もいよいよ夏本番が到来。ツルツルッとのどごしのよい麺料理が恋しくなる時期です。そこでお試しいただきたいのが、田田田堂から新発売になったばかりの「お米のめん」。おなじみのパートナー生産者「7代目藤岡農場」から届く希少な有機山田錦米粉を生かした無添加のプレミアム品質は、小麦アレルギーをお持ちの方や、グルテンフリーを実践されている方にもおすすめです。製麺をお願いしているのは、広島県三原市の過疎のまち大和町にある「おこめん工房」さん。「米農家出身だから米農家の気持ちがわかる」という、田田田堂にとっても頼もしい存在です。

過疎化が進むふるさとのために、安定した暮らしを捨てて製麺業へ

出典:おこめん工房 インスタグラム

今や全国の米農家から相談が持ち込まれる「米農家を応援する製麺所」はいかにして生まれ歩んできたのか、現代表の井掛雅祥さんにお話を伺いました。

広島県三原市大和町は、古くから水田の多い農業地。井掛さんの家も、代々この地で米作りにたずさわってきました。そんな中、井掛さんの父・勲さんが「おこめん工房」を立ち上げたのは2005年。勲さんは、長年兼業農家として田んぼを守りながら、公務員として町役場に勤めてきた人です。54歳にして一念発起した背景には、急速なスピードで過疎化が進むふるさとに対する強い危機感がありました。その当時のことを、井掛さんはこんなふうに語ります。

井掛さん
「父は、役場時代からこの地域の活性化についてずっと考えてきた人です。食卓の多様化によって米の消費量が減り続ける中、このまま米が売れなくなったら地域が維持できない。ではどうしたらいいか、と悩んでいた時に、ベトナムの米粉麺“フォー”と出会って、これなら日本でも受け入れられるんじゃないかと考えたんです。役場も辞めて起業したのは、行政でできることに限界を感じていたせいもあるかもしれません」

製麺機を一式購入して、さっそく商品開発をスタート。でもここからがまさにイバラの道でした。

井掛さん
「役人やりながら兼業農家してた人間が会社を興しても、まあそんなにうまく売れるわけはないですよね(笑)。設備への投資で退職金を使い果たして、運転資金も底をつき、何度か夜逃げしかけた、と聞いています」

「米農家による、米農家のための製麺所」に、全国から相談が

出典:おこめん工房 インスタグラム

最初に出した米粉麺が思うように売れなかったのは、営業力の問題もさることながら、品質面の問題も大きかったといいます。それは井掛さんの表現を借りれば、「まるで輪ゴムを食べているような麺」。そこから今のような高品質の麺ができるまでに、「おこめん工房」さんは実に10年もの間、試行錯誤を続けたのです。製粉のしかたから、粉を練り上げる時の温度帯や時間、蒸し時間のコントロールにいたるまで、製麺工程を独自に研究し、製麺機もオリジナル仕様にカスタマイズ。まさに不屈の精神のなせるわざというほかありません。

やがて「おこめん工房」さんの考えに共鳴して「うちのお米も麺にしてほしい」という農家さんもじわじわと増えていきました。

井掛さん
「“売る力はないが、農家の気持ちはわかる”ということで、大和町と同じように苦しんでいる全国の農家さんに、父が直接お声がけをしていった結果、徐々に口コミで広まっていった感じです」

そしてようやく製麺所が軌道に乗り始める頃、井掛さんもこの事業に参画。もともと従事していた建築関係の専門職と、製麺所のリーダー、という2足のわらじ生活を送るようになって数年になります。今では北海道から九州まで、さまざまな農家さんからお米が持ち込まれているそう。

地域がこれからも生き残っていく仕組みをつくりたい

「おこめん工房」さんは現在、廃校になった小学校校舎を活用した工房で、製粉から製麺、パッケージングまで一貫体制で手がけています。子育て家事の合間を縫って工場にやってくるママさんや、リタイア生活を送るかたわら農作業の空き時間にちょっとアルバイトを、というシニアまで、地域の方が「働きたい時に働ける」仕組みをつくっているのもユニークなところ。

また製麺事業以外にも、地域で収穫されたお米を扱う小規模なライスセンター(籾の状態で生産者から米を預かり、乾燥・籾すり・選別・出荷まで行う施設)も運営するなど、地域の稲作を支える活動を続けています。

井掛さん
「うちは、なんとかこの地域がこれからも生き残っていけるような仕組みづくりにチャレンジしている会社です。伝統的な農業を今の時代に合うように更新しながら、雇用も生み出し、地域の方々に還元していきたいんです」

0歳から100歳まで楽しめる「お米のめん」の魅力

実は「おこめん工房」さん、製麺に使うのは基本的にうるち米と決めていました。多くの農家が「米余り」に悩んでいるうるち米をまず救いたい、というのがその理由。ただ、2018年の西日本集中豪雨で、広島でも多くの酒蔵が被災し、行き場を失った酒米が増えた時には「これは黙って見過ごすわけにはいかない」と考え、特例的に酒米にも活用の扉を開きました。

とはいえ、遠く離れた兵庫県産の山田錦を使うのは少々異例ともいえること。「最初はお断りしたんですけども……西田さんがすごく熱意を持って何度もオファーしてくださったのでお引き受けすることにしました。米農家の間では酒米は食べるものじゃない、というイメージが強いんですが、食べてもおいしい、というのは驚きでしたと井掛さん。そのおかげで、ブランド立ち上げからずっとつくりたかった有機山田錦の「お米のめん」が販売に漕ぎつけたのです。

井掛さん
「米粉麺は原材料がシンプルで安心ですし、小麦を控えたい人への選択肢としてもいいですよね。それからもうひとつ、この麺の可能性をあげるとしたら、”0歳から100歳まで楽しんでいただける”というところかなと思っています。標準の茹で時間は1分半ですが、硬め食感がお好きなら30秒程度でもいいと思います。一方で短く切ったものを10分ぐらい茹でれば柔らかくなって、お年寄りや赤ちゃんにも食べやすくなるんです」

最後に井掛さんおすすめの食べ方を伺ってみました。

井掛さん
「夏はやっぱりそうめん代わりによく食べますね。あとは個人的には、卵かけごはんみたいに、茹で上げた麺に生卵と薬味と醤油をかけて、かき混ぜて食べるのが好きです」

うーん、確かにそのぶっかけ麺もおいしそう!
皆さんもこれから、ぜひいろんなレシピにトライしてみませんか?

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この記事を書いた人

松本 幸

松本 幸

ハニーマザーのコミュニケーションディレクターを務めるフリーランスのコピーライター。神戸育ち大阪在住。著書に、2002-2006年のパリ在住経験から企画編集執筆した「パリ発キッチン物語おしゃべりな台所」がある。江戸落語と文楽が好き。週末菜園チャレンジ中。

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