知る人ぞ知る樹上完熟の美味!「神戸いちじく」の畑を訪ねて | ハニーマザー
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知る人ぞ知る樹上完熟の美味!「神戸いちじく」の畑を訪ねて

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トロリとやわらかくジューシーな果肉からあふれる、濃厚な甘さと芳醇な香り。田田田堂の「お米のジェラート」や「お米のタルト」でも人気の神戸いちじくを、ご存じでしょうか?実はいちじくは、神戸の名産物として、近年とくに注目を集めているフルーツ。樹上で完熟させてから収穫し出荷するため、長距離輸送には向かず、神戸市近郊にしか出回らないローカルな存在なんです。今回は、そのいちじくの生産者である「ひさくに農園」さんを訪ねました。

いちじくの香り漂う、「ひさくに農園」さんへ

田田田堂のお店がある神戸・御影から車を走らせること約50分。のどかな田園風景が広がる神戸市西区岩岡町にたどり着きます。岩岡町は、神戸いちじくの産地の中でもトップの生産量を誇るエリアです。

「ひさくに農園」さんに着いて車を降りた途端、フワッと鼻をくすぐるいちじくの甘い匂いに、まずびっくりして思わず深呼吸。私たちを迎えてくださったのは、農園主の久國二郎さんと、奥さまの千歌さんです。田田田堂では、いちじくメニュー開発に当たり、事前にいくつかの農園さんのいちじくを食べ比べてみましたが、スタッフが一番おいしいと太鼓判を押したのが、この「ひさくに農園」さんのいちじくでした。

久國さんご夫妻は、10年前に新規就農でここ岩岡に移住してきました。40代半ばでそれまでの仕事を辞め、農業で生きていこうと決めた久國さん。就農塾の研修で先輩農家を訪ね歩く中で「農業初心者でも育てやすい」と勧められたのが、いちじくでした。休耕田を借り受け、いちじくの樹を植えて、今年でようやく8年になります。

久國さん
「ここらへんの土は粘土質で、水を保ちやすいんですが、それがいちじくには合っていたんでしょうね。実際、神戸いちじくの生産量が一番多いのはここ岩岡なんです」

兵庫県だけの「オーバーラップ整枝法」は、まさに知恵の結晶!

フェンスで囲われたいちじく畑にお邪魔してみると、ほぼ同じ背丈で整然と並んだ枝々に、ポコポコとたくさんの実がなっています。品種は「桝井ドーフィン」。ハウスものとは違い、太陽をたっぷり浴びて育つ露地栽培です。いちじくはバナナやメロンなどと違って追熟しないため、樹からもいだ時点で熟成がストップします。だから完熟のピークまで樹に実らせておくことが、おいしさのポイント。皮の色が黒っぽく濃くなり、重そうに垂れ下がってきたら、それが収穫のサインです。

「根元を見てください」と久國さんに促されて、下を見てみてびっくり。そこにあったのは、横一文字に伸びた幹です。これは「オーバーラップ整枝法」と呼ばれるもので、まだ若木のうちに幹を横倒しにして地面と水平方向に伸ばし、実のつく枝を垂直に立たせる栽培方法。神戸市発祥の「一文字整枝法」がさらに進化したもので、兵庫県が特許を取得しているそうです。

久國さん
「従来の一文字整枝法が、主幹を左右二方向に分岐させるのに対して、こっちは片側一方向に横倒し。1本1本の樹の先端が、隣の樹の主幹(地面から最初の枝が分岐する箇所まで)に重なるように仕立てます。これは、実のつき方がより均等になるようにと考えられた方法なんです。それにオーバーラップ整枝には、凍害から果樹を守る効果もあるんですよ」

初めて耳にするお話に、一同へえーっと感心。これぞ生産者さんたちが何十年も積み重ねてきた知恵の結晶です。ちなみに、いちじくは生命力が非常に強いのが特徴。夏〜秋の収穫期を終え、冬になって葉が落ちると、農家さんたちは幹だけ残してすべての枝を切り落とすのだそう。それでも春になるとまた自然と新しい枝が伸びて、次々と果実を実らせてくれるのです。

久國さん
「樹齢3~5年ぐらいの若い木は、実が大きくて重量もあるんですが、もうちょっと歳を重ねた樹の方が、玉は小さくても味は良くなりますね」

いちじく農家さんの努力の賜物、大切に生かして

いちじく農家さんにとって、一番ハードなのはやはり収穫期。8月9月はほとんど休む間もなく、早朝から収穫して選別して出荷準備をして……という日々が続きます。暑さもさることながら、それ以上に辛いのは雨の日。せっかく樹上で完熟させた実も、そのやわらかさゆえに雨が当たると傷がつき、実が水を吸って味が薄くなってしまうのだとか。

久國さん
「大変なこともありますが、収穫期の前後にはしっかり休みを取りますし、会社勤めの頃よりも、今の暮らしの方が気に入っていますね。農業に定年はないし、あの時踏み切って1よかったなと思っています」

ひさくに農園さんでは、今もいちじくの作付面積を増やしつつあるところ。調理師免許を持つ妻の千歌さんがおうちでつくるいちじく活用料理にも、ますます磨きがかかります。

知れば知るほど奥が深い果実いちじく。神戸の風土が育んだその美味は、ぜひ遠方の方にも味わっていただきたいもののひとつ。「いちじくのタルト」は10月末までの期間限定販売で、田田田堂のお店でしか手に入りませんが、「お米のジェラート神戸いちじく」は季節を問わずオンラインストアでご購入可能です。農家さんの思いを受け取って大切に生かした自信作、ぜひお試しくださいね。

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この記事を書いた人

松本 幸

松本 幸

神戸育ち大阪在住のフリーランスライター。著書に、2002-2006年のパリ在住経験から企画編集執筆した「パリ発キッチン物語おしゃべりな台所」がある。江戸落語と文楽が好き。

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