播州の甘酒博士・西村さんを訪ねて | ハニーマザー
  1. トップ
  2. ハニーマザージャーナル
  3. コラム
  4. 播州の甘酒博士・西村さんを訪ねて

コラム

播州の甘酒博士・西村さんを訪ねて

14264

先日発売になった田田田堂の「糀あまざけ」、もうお試しになりましたか?酒米の王様・山田錦の中でも、とくに希少な有機JAS認証のものを使った自信作です。その甘酒づくりを担ってくださるのが、兵庫県加西市で食品加工会社「食品衛生デザインオフィス」を営む西村章さん。田田田堂の「お米のジェラート」に使用している特濃甘酒も、西村さんの工場にお願いしていて、まさに田田田堂にとっては頼れる「播州の甘酒博士」。今回は、食にまつわるアイデアと行動力の塊のような西村さんの横顔、ぜひ皆さんにもご紹介させてください。

仕事を始めてからこのかた、ずっと食ひとすじ

「山芋から作る甘酒」で特許を取得したりと、旺盛な実験精神で食の可能性を開拓し続けている西村さん。その仕事場は、のどかな田園風景に囲まれた播州・加西市にあります。

西村さんが起業したのは、今から20年前。それまではお弁当や惣菜を製造する会社に勤め、商品開発と品質管理を担当されていました。とくに西村さんが若手だった昭和50年代は、納入先であるスーパーでお弁当・惣菜の品揃えがどんどん充実していった時期。それに比例して、衛生面や日持ちに関する要求レベルも大幅に上がっていく中、「品質管理の知識を究めなくては差別化が図れない」と考えた西村さんは、先進的ノウハウを持つメーカーの門戸を叩き、教えを乞うたそうです。

「メーカーさんを訪ねて土下座してね、“お宅の商品をトン単位で買いますから、私に食品添加物のことから微生物の検査手法、無菌野菜のことまで勉強させてください、私を毎日ここへ通わせてください”、って頼み込んだんです。」

あっと驚く行動力で相手を動かした西村さんは、最先端の知識を学んで会社に貢献したのち、40代後半で独立開業。起業した当初は、コンサルタントとしてさまざまなメーカーをサポートするビジネスを行っていました。

「でもコンサルなんか、ノウハウを伝授したら早くて3年ぐらいでお役御免になってしまう。そんな中、“こんなにいろんなアイデアを持ってるのに、なんであんた自分で作らへんねん”って言ってくれた人がおってね。それもそうやなあと思って、実家の納屋を改造して、食品加工の仕事を始めたんです。でもまあ〜、そこからは聞くも涙、語るも涙(笑)。コンサルをやってた時の利益も全部飛んでしまって、銀行からの借入もすぐに底をついて。ほんまに七転び八起きをずっとやってるんです。」

相当なご苦労があったはずですが、西村さんの語り口にかかればなぜか悲壮感が漂わないのが不思議なところ。振り返れば、これまでずっと食ひとすじだった西村さん。「好奇心を持ったことにはとことんのめり込むタイプ」だと言います。

「やっぱりものづくりは、コンサルだけやってるのより楽しいですよ。研究するのも好きやし……。きっとこの性格はおばあさん譲りやね。料理が好きで、いつもあれこれ工夫してましたから。」

幼い日に見ていた、祖母の記憶が蘇る甘酒づくり

食品加工業を始めて5〜6年経った頃、西村さんの元に兵庫県のお煎餅屋さんから「お煎餅に使用している山田錦を使って、甘酒をつくってほしい」という相談が持ち込まれました。甘酒といえば、西村さんにとっておばあさんの思い出と直結している思い入れあるもの。おばあさんの懐かしい姿をなぞるように、西村さんは甘酒づくりを始めました。

「おばあさんの甘酒は、村でも一番うまかったと思いますね。その理由は、今になって思えば温度管理ですわ。甘酒はかめで仕込んでましたけど、そのかめを毛布で巻いて紐で縛って、こたつに入れて糖化させてました。当時は「バンコ」っていうかまくら状のドームで火鉢を覆って、こたつの熱源にしてたんですけど、その火鉢に籾殻とか練炭をくべて、上手に温度管理しとったんやね。ここらでは秋祭りの時期には、どの家庭も鯖の棒鮨と煮しめと甘酒をつくったもんです。それが播州の郷土料理なんですよ。」

甘酒になる前の有機山田錦米。

こうして試行錯誤の末に、独自の製法を確立した西村さん。その製造工程を覗かせていただきました。

まず山田錦米に水を加えてお粥に炊き上げるのですが、この時、ムラのない均質さを叶えるため、水は2回に分けて加え、大きなヘラで休まず混ぜながら炊くという手間ひまを惜しみません。お粥が炊き上がったら、ミキサーで攪拌して米粒を細かくしてから米糀を加えますが、この糀も山田錦を加工してつくった特注のものです。

こうしてできた糀入りお粥は、徹底した温度管理のもとでゆっくり発酵熟成して甘酒に。市販の甘酒の多くが糖度20度前後なのに対して、糖度30〜32度まで高めて濃厚リッチな味わいに仕上げます(ジェラート用の特濃甘酒は、さらに熟成時間を多めにとり、糖度50度に達するまで糖化を進めます)。甘味料を一切加えずに、お米と糀と水だけでこんなにも甘くなるなんて、お米のパワーにびっくりです。

山田錦を使った特注の糀をたっぷり加えて贅沢に。
甘酒がつくられる工程に、パティシエ西田晴美も興味津々!

地元・加西をはじめ兵庫の魅力ある農作物を加工品にして発信

最近では、地元加西市を中心に兵庫県産のいちごやいちじく、黒豆などの材料を使って、多彩なフレーバー甘酒もつくって販売している西村さん。農家さんと顔の見える信頼関係を築き、規格外品も含めて捨てずに生かすことを大切にしています。また、休耕田にゆずの樹を植え、そこから収穫した果実を使用する活動も始めているそうです。さらに甘酒以外にも、砂糖を使わないあんこ、ジャム、ドレッシングなど、ユニークな商品を次々と開発している西村さん。その姿勢からは、食に対するあくなきチャレンジ精神が伝わってきます。

「いつもお世話になってる税理士の先生には、あんたのとこは3回ぐらい倒産しててもおかしくなかった、って言われるけどね。でもそれでも続いてるということは、今の仕事があんたそのものなんやから、大事にせなあかん、って言われたんですよ。」

まさに「食は人なり」。そう思うと甘酒の味わいも一層深まるような、そんな気がします。信頼できるお米の生産者さんと加工者さんとのご縁に恵まれてできた、田田田堂のプレミアムな「糀あまざけ」。その誠実なおいしさを、ぜひご家族でお楽しみください。

朝食に、新鮮フルーツと甘酒を合わせたスムージーはいかが?レシピはハニーマザージャーナルで公開中!

この記事で紹介されている商品

この記事を書いた人

松本幸

松本幸

ハニーマザーのコミュニケーションディレクターを務めるフリーランスのコピーライター。神戸育ち大阪在住。著書に、2002-2006年のパリ在住経験から企画編集執筆した「パリ発キッチン物語おしゃべりな台所」がある。江戸落語と文楽が好き。週末菜園チャレンジ中。

apge top